安倍(晋三首相)が勝てもしない(ISとの)戦争に参加する決断を下したせいで、ケンジを殺すことになった

【カイロ秋山信一】イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)とみられるグループはシリア時間の1月31日午後10時(日本時間2月1日午前5時)ごろ、仙台市出身のジャーナリスト、後藤健二さん(47)を殺害したとする新たな映像をインターネット上で公開した。ISが拘束していたヨルダン軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉の安否には触れていない。ISは、ヨルダンで収監されているISの前身組織メンバー、サジダ・リシャウィ死刑囚の早期釈放を求めていたが、ヨルダン政府は応じなかった。ISは、後藤さんと共に拘束していたとみられる千葉市出身の湯川遥菜さん(42)も「殺害した」としており、一連の人質事件は最悪の結末を迎える公算が大きくなった。

 「日本政府へのメッセージ」と表題が付けられた映像は、約1分間。1月20日に投稿された最初の映像と同様、IS広報部門のロゴマークが入っていた。

 黒ずくめで覆面姿のIS戦闘員とみられる男が、オレンジ色の服を着てひざまずく後藤さんとみられる男性の脇で、「我々の軍隊は血に飢えている。安倍(晋三首相)が勝てもしない(ISとの)戦争に参加する決断を下したせいで、ケンジを殺すことになった」と主張。「おまえの国民を場所を問わず殺すだろう。日本にとっての悪夢が始まる」と話した。その後、地面に横たわった遺体が映し出された。

 覆面姿の男は、20日の映像に登場した人物と同じとみられる。背景は砂漠のようだが、20日の映像とは異なっていた。湯川さんと同様、後藤さんの「殺害」を証明する材料は映像以外にない。ISは過去の人質殺害事件で遺体を返還するなどしておらず、安否確認を含めた実態解明には困難が予想される。

 一連の人質事件は1月20日、ISが後藤さんと湯川さんを拘束している映像を公開して表面化した。IS側は日本政府に対し、「72時間以内に2億ドル(約235億円)を支払え」と要求。24日には「湯川さんを殺害した」と主張して遺体とみられる画像を公開し、身代金要求を取り下げる一方、死刑囚と後藤さんの「人質交換」を要求した。さらに27日には、死刑囚を釈放しなければ24時間以内に後藤さんと中尉を殺害すると脅迫。29日には、日没までに死刑囚をトルコとIS支配地域の境界に連れてくるよう求めていた。

 ヨルダン政府は中尉と死刑囚の身柄交換には応じる姿勢をみせていたが、ISは交渉が決裂したと判断した模様だ。ヨルダン政府がISの要求通りに死刑囚を釈放しても、中尉が解放される保証はなかった。

 ヨルダンは米軍主導の有志国連合の一角として、ISに対する空爆に参加してきた。過激派対策を推進する立場もあり、後藤さんとの交換による死刑囚釈放を拒否したとみられる。日本政府はヨルダンやトルコなど友好国に協力を依頼して対応してきた。

 ISは身代金の受け取りや死刑囚の奪還には失敗したものの、一連の脅迫によって存在感を誇示することに成功した。

 湯川さんは昨年7月にシリア入りした後、8月にISに拘束された。後藤さんは旧知の湯川さんの救出や取材の目的で10月にシリア入りし、「IS支配地域に向かう」と友人に伝えた後、消息を絶っていた。

2015年02月01日 09時05分

毎日新聞より http://sp.mainichi.jp/select/news/20150201k0000e030101000c.html